第6回  ルビコン越え

見たいものしか見えない

  厚生労働省が「働き方の未来2035:一人ひとりが輝くために」という懇談会を立ち上げた。「懇談会」というと,学校の先生とPTAとの保護者懇談会をすぐ思いつくが,Wikipediaをみると,第2の意味があって,「中央省庁等の行政庁に設けられる,いわゆる『行政運営上の会合』。『私的諮問機関』とも呼ばれる」だそうだ*1

  どうして懇談会なのか。厚生労働省には,労働政策審議会という「正規軍」がある。だから,この懇談会は「外人部隊」ということだ。ただ,この部隊は,戦う場が違う。その違いが,場所的なものではなく,時間的なものであるところがミソだ。懇談会の名称からわかるように「2035年」という「未来の世界」のことなので,現在の政策課題を扱う審議会との重複を避けるということだろう。

 しかし2035年の課題は,現在のしかも喫緊の課題なのだ。これを審議会という「正規軍」で戦えないところに,現在の労働政策の抱える問題があるようにも思える。

 2035年はずいぶん先のことで,そのときに何が起きているかわからないから,審議会でやる必要はない,などと悠長なことを考えているとしたら,それは危険だ。現実に,いま労働革命が起きているのだ。悲観も楽観もせず,過度の絶望も期待もせず,冷静に事実を分析していくことが必要だ。

 

 「見たくないものは見えない」。これは,東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会の最終報告*2の委員長所感に出てくる言葉だ。委員長は,失敗学で有名な畑村洋太郎氏(東京大学名誉教授,工学院大学教授)だ。畑村教授は,カエサルの有名な「libenter homines id quod volunt credunt」(人間は信じたいと望むことを喜んで信じる)を引用していた。『ガリア戦記』第3巻に出てくる部分だ*3。畑村教授は,先の言葉に引き続いて,「見たいものが見える」と書かれており,それがこのカエサルの言葉に直接対応する。

 名文家の誉れ高いカエサルの上記の言葉は,副官のサビヌスがウネッリ族との戦いでみせた計略を評したものだ。私たちの敵は,ある意味で,カエサル軍よりもはるかに手強い。未来という得体の知れないものが相手だからだ。とはいえ,カエサルにやっつけられたガリア人の二の舞になってはならない。

 

どこでも,いつでも,働けます-テレワーク-

 最近やたらと「働き方改革」という言葉を目にする。雑誌や講演のタイトルでも頻繁に用いられる。安倍晋三首相も口にしており*4,役所もまた,流行に遅れてはならないと思っているのか,いろんなところで検討を始めている。上記の懇談会も,その一つだ。改革という以上,何か新しい要素が必要で,そうなるとロボットであり,人工知能だ。これらの分野の専門家たちは,あっちこっちで引っ張りだこだ。

  ただ,「働き方改革」を考えるうえで,まず確認しておくべきことは,月並みではあるが,情報通信技術(IT)が私たちの生活をすでに大きく変えているという事実だろう。私たちには,「スマホ(スマートフォン)」なしの生活がすでに不可能となりつつある。iPadのように,情報通信とコンピュータが一体となったタブレットコンピュータも日常的に利用されつつある。スマホやiPadをもたないことを,流行に左右されない生き方と自慢する人がいるくらいだから,いまや原則と例外が逆転している。

  こうした変化は,「どのように」働くかにも影響している。キーワードは,「テレワーク」だ。政府は,テレワークを,ITを活用して「場所と時間を自由に使った柔軟な働き方」と呼び,推奨している。テレワークというと,労働法上は,事業場外労働をめぐる論点(労働時間の算定,労災など)が思い浮かぶが,法解釈上の細かい問題はあまり重要ではない。

 テレワークの本質は,「場所」から自由な働き方ができるところにある。場所が自由であるから,「時間」の自由さも生まれてくる。そして拘束性が弱くなる,というところがポイントなのだ。

 私は上記の厚生労働省の懇談会が2月24日に霞ヶ関で開催されたとき,自分の研究室からWEB参加をした。直前まで学内で研究会があり,普通なら欠席となるところだが,WEBを使ったので出席可能となった。そもそも,たかが2時間の会議のために,東京との往復(それだけで6時間以上かかる)をすることは,どう考えても非効率であるし,疲労を考えるとむしろ避けるべきことだ。「働き方の未来」を考える懇談会だからこそ,ITを最大限に活用して,どこまで仕事を効率化できるかを試していきたい。

 会議,営業,契約などをするうえでの場所的な隔たりは,人間が動くことによって解消するというのがこれまでのビジネスだった。出張はそのためにあった。WEBの活用は,この出張を不要にしてくれる。企業には,出張費用を節約できるというメリットもある。JR,JAL,ANAの株をもつ人は要注意だろう。

 

 テレワークは,移動(モバイル)型の就労というタイプのものもあるが,何といっても注目されるのは,在宅での就労だ。出張どころか,通勤さえも不要となる。在宅就労は,それだけLifeとWorkとの接近をもたらすということでもある。新たな意味での職住接近だ。これはワーク・ライフ・バランスの実現にとって当然プラスとなりうる。「なる」ではなく,「なりうる」としたのは,Lifeの領域にWorkがとことん侵入する可能性もあり,そうなると両者のバランスがとれなくなるからだ。ただ,これは本人の心がけしだいである。

 むしろ問題は,雇い主である企業側にある。自宅で就労する者への労務管理は難しい,とされてきた。これが雇用型で就労型のテレワークの普及の阻害要因だった。ところが,これだけなら,技術的には,すでに解決可能である。たとえばWEB出勤管理などはすでに実用化されている。社員を自宅で働かせると,サボらないだろうかと不安になる経営者もいるだろうが,サボる社員は,リアル職場でも,しっかりサボっている。サボるかどうかは,常に社員の行動に目を光らせることよりも,サボって成果を出さなければ損をする成果主義的な処遇体系を構築することで対処すべきなのだ(そうした対処ができないような仕事もあろうが,それはもともと在宅就労に向かない仕事ということだ)。

 むしろ自宅での就労の監視があまりに行き届くと(これも技術的には可能),職住が一体化しているだけに,プライバシー侵害の問題が出てくる。そこは企業の自重が必要なところだ。

 

 さらにテレワークの発展を妨げている原因に,従業員は家族だ,仕事はチームプレイだ,といった経営者の固定観念がある。精神的なつながりを重視するならば,みんなで一緒に集まることが大切だという意見は,説得力がありそうだが,現在の若者をみると,WEB上でつながることにむしろ慣れている*5。従業員の一体感(あるいは企業への忠誠心)を高めることが大切だとしても,それは一箇所に集まるという方法によらなくてもよいのだ。経営者さえ意識改革すれば,いますぐにでも,どこまでテレワークが可能かを検討できる。そうすれば,テレワークの効用に気づくことが多いだろう。

 

どこでも,いつでも,買えます-オンデマンド経済-

 テレワークは,ITを使って「どこでも,いつでも」働けるというものだが,これを消費行動にあてはめると,「どこでも,いつでも」モノやサービスを購入できるということになる。これが「オンデマンド経済」だ。デマンドするのは消費者だ。それに応じて,モノやサービスが提供される。

 最近の「オンデマンド経済」のモデルとなっているのが,話題の「Uber(ウーバー)」だ。私は未体験で,初体験がいまから楽しみだ。それは東京だろうか,アメリカだろうか。

 Uberを使うと,スマホによって,どこでも,いつでも,配車サービスを受けられるそうだ。日本ではまだ普及していないが,遠からずこのタイプのタクシーが一般的となろう。スマホで車を呼ぶことができ,料金はカード決済でキャッシュレス,料金体系は原則固定で明瞭,車種も選べる(しかも,その車は,将来,自動運転車になるだろう)。こうしたサービスが普及しないわけがない。

 このUberをモデルにしたオンデマンド型のビジネスを,「Uber for X」と呼ぶそうだ。あるWEB記事で,サンフランシスコには,次のようなサービスがあると紹介されていた*6

  1.Postmates | Uber for 自転車デリバリー

  2.BloomThat | Uber for お花

  3.BottlesTonight | Uber for クラブ/バー

  4.Washio | Uber for クリーニング

  5.Instacart | Uber for 食料品

  6.Saucey | Uber for お酒

  7.SpoonRocket | Uber for お食事

  8.Ease | Uber for マリファナ

  9.GreenPal | Uber for 芝刈り

  10.Style Bee | Uber for ヘアメイク

  11.Vatler | Uber for 駐車代行

  12.Hotel Tonight | Uber for 直前ホテル予約

  13.YourMechanic | Uber for メカニック

  14.swifto | Uber for 犬の散歩

  15.ManServants | Uber for 出張ホスト

  日本でも,デリバリー系のサービスはすでに広がっている(ピッツァ,米,酒など)が,スマホで気軽にというところが,オンデマンド経済の特徴だ。ドローンの活用が進めば,よりいっそう発展するだろう。

 

誰でもメーカー

  もっとも,このくらいのことであれば,スマホやドローンがあって便利になった,という程度の感想に終わるかもしれない。オンデマンド経済は,サービスのラインナップの主導権は,生産や流通側にあるので,本質的には,従来型の経済と大きな変わりはない。

 むしろ注目すべきなのは,今日,消費者が自己のデマンドを実現するために,生産者に変わるという現象が起きつつあることだ。消費者が,受け身で消費する側にとどまっていないということだ。

 神戸大学大学院経営学研究科の小川進教授の著書に『ユーザーイノベーション-消費者から始まるものづくりの未来』(東洋経済新報社,2013年)*7というものがある。「イノベーションの民主化」*8という観点からの研究の成果だが,そこでは「メーカーがこれまで独占してきたイノベーションという行為がインターネット技術の進歩・普及や生産技術の発展によって広く消費者に開放されようとしています」として,ユーザー(とくに消費者)が,さまざまな形でイノベーションをしている実態が描かれている。

 なかでも興味深いのが,ユーザー企業家の話だ。消費者(ユーザー)によるイノベーションは,企業の製品やサービスの開発に影響を及ぼしてきたが,今日ではさらに進んで,消費者(ユーザー)が自らメーカーになるということも起きている。それを実現したのが,3Dプリンティング(3次元印刷)の発達と普及だ。消費者が,設計をし,生産をする。そしてネットで公開して販売までしてしまう。商品化が可能かどうかは,ネットでのコミュニティの評判から,ある程度,事前に推測できる。

 大量生産された既製品の押しつけではなく,自分の欲しいものを,自分で作る。そして,それが他人にも評価されたら,商売にもなる。こうした生き方,そして働き方が,これからのライフスタイルの主流になっていくかもしれない。

 小川教授はイノベーションの観点で,消費者から始まるものづくりを描いているが,同じようなことは,すでにクリス・アンダーソン(関美和訳)『MAKERS―21世紀の産業革命が始まる』(NHK出版,2012年)*9も述べていた。新たな産業革命のキーフレイズは,アイデアとラップトップと3D プリンターで,ものづくりが変わる,というものである。

 

 これまでは,企業という存在が生産を担当し,私たちに雇用を与えると同時に,私たちの消費を支えてくれた。では,私たちが生産を担うようになると,どのような変化が起こるのだろうか。普通に考えると,雇用はなくなるということだ。それは,私たちが企業に代わる存在となるということなのだろう。つまり起業だ。これを「労働破壊」と呼ぶ者もいる*10が,これを「消費社会」から「生産社会」への移行とみて,ポジティブに捉える者もいる*11。私は後者の立場である。

 

あなたと分かちあいたい

  Uberの話に戻ろう。Uberには,オンデマンド経済という側面だけでなく,もう一つ,重要な側面がある。それが,「シェアリング・エコノミー」だ。総務省の平成27年版の「情報通信白書」によると,「シェアリング・エコノミー」は,次のように説明されている*12

 「典型的には個人が保有する遊休資産(スキルのような無形のものも含む)の貸出しを仲介するサービスであり,貸主は遊休資産の活用による収入,借主は所有することなく利用ができるというメリットがある。貸し借りが成立するためには信頼関係の担保が必要であるが,そのためにソーシャルメディアの特性である情報交換に基づく緩やかなコミュニティの機能を活用することができる。シェアリング・エコノミーはシリコンバレーを起点にグローバルに成長してきた。PwCによると,2013年に約150億ドルの市場規模が2025年には約3,350億ドル規模に成長する見込みである」。

  民泊のAirbnb(エアビーアンドビー)やライドシェアのUberやLift(リフト)などが,この業界の代表格だ。アメリカ発だが,日本にもすでに押し寄せつつある。政府も関心をもっていて,対応に前向きだ*13。最近では,実験的なことが可能な特区という仕組みがある*14

 前述のユーザー企業家は,イノベーションの担い手であったが,ここでは,そんなレベルの高いことは必要ない。自分のもっている遊休資産を使えばいいだけだからだ。

 働き方という点で注目されるのは,やはりUberなどのライドシェアだ。個人タクシーの白タク版という言い方もできそうだが,友達の輪を広げて,車を貸し借りして,そのお礼を払う関係というと,ビジネスという感じはしない。でも,これで稼げるのだ。実際,アメリカのUberの運転手らは,それで生計を立てている者がほとんどだろう*15。しかも,ドライバーは,タクシー会社で雇用されて働くこともあれば,空いている時間をUberで働くなんてこともやれる。堅実な雇用労働者としての生活と,時間的に自由な自営業者としての生活の両立だ。これも本連載の第3回目でみた「パラレルキャリア」の一種だろう。

 そもそも働くというのは,自分のもつ技能という資産の「遊休」活用とみることだってできる。つまり,自分の技能を他人とシェアするということだ。雇用(雇傭)というのは,歴史的には,物の賃貸借の人間版だった。現在の民法上の契約類型でみると,物を賃貸するのが賃貸借で,人間の労働力を賃貸するのが雇用(雇傭)だったり,請負(正確には,なすべき仕事の賃貸借)だったりするということを思い起こすと,「技能のシェアリング」という見方は,それほど突飛なものではないことがわかる*16。技能は自分で使えば自営業者,他人とシェアすれば,形態によって,雇用であったり請負であったりするということだ。

 

 ところで,民泊にしろ,ライドシェアにしろ,当局は,自分たちの目が届いていないところで,こうしたビジネスが広がることを危険視しがちだ。とくに安全性は重要なポイントであり,当局がこれを気にするのは,仕方ないところもある。ただ,安全性と利便性はトレードオフの関係にあり,前者と後者のバランスをうまくとることが大切だ。そして,そのバランスのとり方は,最終的には国民の選択にゆだねられる。何かトラブルがあったらすぐに規制が足りないなどと言い出すと,当局は過剰に慎重になって,安全性のほうに大きくシフトし,利便性は損なわれる。グーグルの自動運転車の事故*17に過剰に反応して,開発に抑制的な世論が形成されるべきではない。さもないと,新しいビジネスは育たなくなる。

 今日,国による規制の必要性は,ネット社会の発達で減退していることにも留意する必要がある。ネットでの評判というメカニズムを利用して,粗悪製品や悪徳業者を駆逐していくことが可能だからだ。もちろん,ネット情報だけでは,騙されることがある。そこで頼りになるのが,アナログ的な「口コミ」であり,さらに,ネットを活用したフェイスブック型の現代版「口コミ」だ。安全を軽視する業者に近づかないような情報共有のシステムを構築しながら,利便性の向上を図っていくというシナリオが望ましい。これにより新たなビジネスが生まれ,働き方の可能性も広がる。

 

あなたとつながりたい

 シェアリング・エコノミーは,今日のネット社会における新たな人のつながり方を模索するものともいえる。これまでは,多くの人の帰属先は企業であった。正社員になって企業に帰属することが,成功への第一歩だった。非正社員と正社員の格差は,帰属先の有無によるものともいえる。非正社員なら,どんなに頑張っても正社員の仲間にしてもらえないから、疎外感をおぼえる。格差への不満の根底には,この疎外感がある。

 しかし,これからは,企業への帰属がそれほど重要ではなくなるだろう。別に企業なんてところに帰属しなくてもいい。企業への帰属は,ある意味で「社畜」となることだ*18。企業に帰属しなくても,ネット社会に居場所があり,そっちのほうがよいと考える若者が増えても不思議ではない。それは,バーチャルな世界に閉じこもる「オタク」になるということと同義ではない。前述のように,若者たちは,バラバラに散らばっているようで,実はネットやラインでつながり,チャットをし,相互に信頼関係を形成しながら生活していく。そんな社会が生まれている。シェアリング・エコノミーの背景には,こうした新たな帰属の形がある。

 

dependent な independent

  自営業者は,英語でindependent contractorという。そこでいうindependentとは,誰からのindependentだろうか。それは,企業からindependentであるということだ。一般の雇用労働者が,従属的,つまりdependentな労働者と呼ばれており,これと対置される。

  労働法は,dependent な労働者を,collective にとらえて,dependent な状況に起因する諸問題を解決するために誕生し,発展してきた。つまり,従属性,集団性が,労働法のキーワードだ。

 これに対して,自営業者は,individualに活動し,indepedentであるので,保護の必要性がないと考えられてきた。そのため,ごく少数の例外の保護規制(労災保険の特別加入や家内労働)を除き,労働法の対象外とされていた。ただ,自営業者がindependent なのは,企業にdependent でないというだけであって,それ以外の意味でもindependent であるとは限らない。

 以前,労働省の「在宅就労問題研究会」(諏訪康雄先生が座長)に参加していたとき,個人自営業者であるSOHO(small office home office)の代表として参加されていた堀越久代氏(いまは,どうされているでしょうか?)が,「雇用労働者は恵まれていて,SOHOなどの自営的な就業者との間に保護の格差があるのは不当だ」という趣旨のことを主張されていた。当時,私はこの発言に違和感をもった。自分で勝手に自営を選んでいるのに,政府に保護を求めるのはおかしいのではないか,と思ったのだ。

 しかし,私の理解は不十分だった。SOHOは,労働法の保護も,企業の福利厚生もない。頼るのは個人だけだ。independent であることよりも,individual で,誰にもdependent ではないということのほうが事態は深刻ともいえる。

 individual に働く自営業者や企業家らが求めているのは,実は誰かにdependentでありたいということなのだ。ただ,それは企業対従業員でみられる垂直的・階層的なdependencyではなく,相互的で水平的なdependencyだ。後者を可能にするうえで重要なのが,前述のフェイスブックのようなSNS(ソーシャル・ネットワークサービス)を通したWEB上のつながりである。

  個人自営業者は,いまやネットを使って,取引先とビジネスをするだけでなく,同業者や仲間と情報交換をしたりして,WEBでの社会・コミュニティを作っている。

 O2O(Online to Offline)も重要だ。これはネットから,リアル店舗への誘導をもたらすマーケティング戦略として用いられる言葉だが,人々のつながりにもあてはまる。シェアリング・エコノミーで大切なのは,人的な信頼関係であった。Offline のリアル世界も必要なのだ。

 労働法屋からすると,今後,independent で,individual に働く人たちのニーズをいかに汲み取り,法的な整備をしていくかが重要な課題となる。こうした働き方は,個人の自己実現に役立ち,多くの人の生活の質を向上させるという点で社会的意味もあり,さらに国家の経済を支えることになる。だからこそ,政府も真剣にこの問題に取り組まなければならない。厚労省の「働き方の未来2035」の議論も,そうした方向に向かうことを期待したい。

 

賽は投げられた

 カエサルはガリアを平定したあと,ローマにすんなり凱旋することは許されなかった。偉業を達成したカエサルの権威が高まりすぎることを恐れた元老院にとって,カエサルは放逐すべき存在だった。

 しかし,カエサルは,元老院の命に反して,ルビコン川を渡りローマの領内に入る。領内に入ると,軍を解散しないかぎり,敵とみなされて内戦が始まることは百も承知だった。しかし,軍を解散して丸腰になると,命さえ危うい。カエサルにとって進む道は一つしかなかったのだ。

 Alea iacta est (賽は投げられた)

 ゲームはすでに始まったと叫んで,周りの者の士気を鼓舞した。そしてカエサルは勝つ。

 私たちの戦いのゲームも,すでに始まっている。「外人部隊」であろうと,「正規軍」であろうと関係ない。高い士気と危機感をもって,未来の社会に立ち向かわなければならないのだ*19

                                 次回に続く

*1:懇談会 - Wikipedia

*2:東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会

*3:ガリア戦記 第3巻 - Wikibooks カエサルは,モルビアン湾の海戦(紀元前56年)での強力なヴェネティ族との戦いに備えて,他の民族がヴェネティ族と連携しないよう,腹心を他の部族制圧のために派遣していた。サビヌスは,ウネッリ族の制圧にあたっていた。

*4:安部首相は「同一労働同一賃金」なる言葉も口走っているが,法的にはナンセンスである。労働法に関係するタームを,ポピュリスティックに用いてもらいたくはない。

*5:むしろ,Lineの「既読無視」からイジメが起こるなど「つながりすぎ」の弊害もあるのだが。

*6:

*7:Amazon.co.jp: ユーザーイノベーション―消費者から始まるものづくりの未来 eBook: 小川 進: Kindleストア

*8:著者によると,製品やサービスの作り手であるメーカーでなく,使い手であるユーザーのイノベーションを起こす能力と環境が向上している状態,と定義されている(はじめにIV)。Eric von Hippel (エリック・フォン・ヒッペル)というアメリカの研究者が提唱した概念。

*9:Amazon.co.jp: MAKERS―21世紀の産業革命が始まる 電子書籍: クリス・ アンダーソン, 関 美和: Kindleストア

*10:たとえば,本山美彦『人工知能と21世紀の資本主義―サイバー空間と新自由主義ー』(明石書店,2015年)。→Amazon

*11:たとえば,長沼博之『ワーク・デザイン-これからの<働き方の設計図>』(阪急コミュニケーションズ,2013年)。→Amazon
長沼氏は,「消費者である個人と投資家である個人が力を持ち,市民である個人や労働者である個人が蔑ろにされている」現状を改め,「労働者または消費者を『生産者』へと変えようとする動き」が起きていると述べている(161頁)。

*12:総務省|平成27年版 情報通信白書|シェアリング・エコノミーとは

*13:

*14:

*15:

*16: ローマ法における,locatio conductio(賃約)が,現在の日本の民法の雇用(locatio operarum),請負(locatio operis faciendi),賃貸借(locatio rei)の起源とされている。

*17:

*18:このことについては,拙著『君の働き方に未来はあるか?-労働法の限界と,これからの雇用社会』(光文社新書,2014年)も参照。→Amazon

*19:専門的な話については,拙稿「ITからの挑戦」を読んでみてください。
日本労働研究雑誌 2015年10月号(No.663)|ITからの挑戦─技術革新に労働法はどう立ち向かうべきか(PDF)

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