読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

第3回  頼りになるのは?

Amazonからの便り

 誰かが名簿を売ったのだろう。研究室にマンション投資の勧誘の電話が,よくかかってくる(かつては自宅にかかってくることもあった)。こんな電話で,仕事の邪魔をされるのは迷惑千万だ。最初の数語で勧誘の電話とわかるので,すぐに切ってしまう(虫の居所が悪いときは,電話を切らずに放置して,勝手にしゃべらせておく)。こうした電話が後を絶たないのは,この勧誘に乗って投資する同業者がいるからだろう。でも,これで儲かったという人の話は聞いたことがない。

 ただ,こんな迷惑電話は今後なくなっていくかもしれない。これから20年以内になくなる仕事ランキングなるものがある。2013年にOxford大学の研究者が発表した論文「THE FUTURE OF EMPLOYMENT: HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION?」(「雇用の将来:仕事は,どこまでコンピュータ化されるか」)の末尾に,702のjob が「絶滅危険度」が低い順に並べられている。

The Future of Employment: How susceptible are jobs to computerisation? | Publications | Oxford Martin School

まさに逆レッドリストだ。そのなかの栄えある(?)最下位が「Telemarketers」,つまり電話による勧誘営業だ。

 今度電話がかかってきたら,「そんな仕事やっているようじゃ未来がないよ」と言ってやろう。会社からは営業妨害だと叱られるかもしれないが,そもそもこちらの営業を妨害する電話をかけてきたのは向こうのほうだから,お互いさまだ。

 

 電話の営業も迷惑だが,突然,研究室を訪問してくる営業はもっと迷惑だ。私の研究室は個室で,秘書や学生もいないので,昼食後,お腹がいっぱいになると,ベルトをゆるめて,ちょっとシエスタ(siesta*1)ということがある。そんなときに,コンコンとノックの音が鳴る。「どなたですか」と聞いても,返事をしてこないか,返事をしていても,私の席から遠いのでよく聞こえない。しかたなく,ベルトを締め直し,服装を正し,目やにがついていないか鏡で確認していると,さらにコンコンと鳴らされる。不快指数が上昇するが,誰が来ているのかわからないので,いちおう丁寧に「はい,いま出ます。お待ちください」と言って,ドアをあける。そうすると,パンフレットのようなものを抱えた営業の男が立っている。若い人のときもあれば,年輩の人のときもある。好みのタイプの女でも立っていてくれたら,ちょっとは話を聞いてみようかという気になるが,相手が男だとそんな時間さえもったいない。人生50年を過ぎると,残りの人生は,1分たりとも無駄なことに使いたくない。「すみません,間に合っています」と用件も聞かずに,あわててドアを閉める。研究棟にも受付が欲しいものだ。

 そんな迷惑な電話や訪問の営業と異なり,メールによる営業には害がない。メールだと見たいときに見ることができるからだ。私は,書籍のほとんどはAmazonで購入するということもあって,よくAmazonから営業メールが送られてくる。その薦めに従って本を買うことも少なくない。

 Amazonの営業は,私の注文履歴の情報をコンピュータで分析して,私に合った本をリコメンドするというものだ。そこでなされているのは人工知能を用いたビッグデータ分析だろうが,著者に本人の本の営業をかけてくる間抜けなところが,ちょっと可愛い。ただ,このことで,私はこの営業を信用するようになった。

 私は,労働関係の本は,普通は研究費を使うので,大学の図書館に購入依頼をしている。つまりAmazonでは買っていない。たまに私費で労働関係の本をAmazonで購入することもあるが,その量は,他のジャンルの本と比べると,無視できるくらいのものだ。それなのに,Amazonは『最新重要判例200労働法』を薦めてきたりする。「こいつ,俺が労働法屋だってことを,何で知っているんだろう」と,昔なら不気味に思っていただろうが,今の時代なら違和感はない。Amazonで購入したことで,少なくともその情報をAmazonに与えることは覚悟のうえだ。現在の人工知能からすると,そこから私の専門を推察するくらい訳ないことなのだろう。

 こうしたリコメンド機能は,Amazon以外でも,いろいろな商品やサービスで活用されている。自分の知らない自分の嗜好を,コンピュータが教えてくれたりもする。おそらく,あなたに適した人はこの人です,という結婚斡旋などにも使えるはずだ。もちろん,仕事の斡旋もそうだ。

 近い将来,Pepperのようなロボットを相手に,自分の情報を伝えると,あなたに適した恋愛の相手はこの人ですとピンポイントで紹介されたり,あなたに適した仕事はこれで,この会社を紹介しますと言われたりするかもしれない。ロボットが私たちの人生を決めているようだが,実は,私たちの知らない私たち自身を人工知能が教えてくれているのだ。親や近所のお節介な人のアドバイスより,よっぽどためになる。

 こうなると,結婚相談所や職業相談所は不要となる。人生の岐路で怪しげなアドバイスをしてきた「○○の母」のような街角の占い師も廃業せざるをえないだろう。それに代わって,登場するのは,「人工知能で占います」なんていう新しい商売だ。ロボットや人工知能が仕事を奪うのなら,それを利用する側に立てばいい。

士業受難の時代

 「士」とつく仕事をしている人は,世間では尊敬されている。「先生」と呼ばれている(あるいは自分たちで,そう呼び合っている)業界も多いだろう。ところが,その士業がなくなりつつあるという話がある。

 大前研一氏は,バルト三国の一つエストニアでは,税理士や会計士の職業が消滅したという衝撃的な情報を伝えている。

この国では,国民の資産や所得すべてを政府がデータとして保有しているので,自動的に税金の計算ができるそうだ。日本でもマイナンバーを導入したので,技術的にはこうしたことは可能だろう。あとは政治的な決定の問題だ。税理士になろうと考えている人は要注意だ。

 他の士業だって,状況はあまり変わらない。たとえば,弁護士。そもそも弁護士の数は飽和状態にあるとみんな感じている。弁護士の数は増えたが,法律サービスのニーズが増えないので供給過剰となり,弁護士で食べていくことは難しくなっている。ただ,それだけであれば,弁護士業にとっての本質的な危機ではない。供給制限さえできれば,問題は解決する。これも政治の問題だ。あるいは圧倒的な技量をもっていればいい。これは実力の問題だ。しかし,それらだけでは解決できない問題もある。それがコンピュータソフトの弁護士業への浸食だ。

 たとえば判例検索くらいであれば,コンピュータソフトでやれる。法律相談のような対人的なサービスは複雑な作業である感じもするが,実は定型的な面もある。相談の現場では,弁護士は,相談者がまとまりなく話す生の事実関係から,法的に意味のある事実をとりあげて論点をしぼり,それを法律,判例,通説などに照らして,回答する。ただこの程度のことなら,人工知能は,そう遠くない将来に,相談内容のなかからよく出てくる言葉をとりだして,それが何の問題なのかを判断して,的確な回答を提示することができるようになるだろう。おそらくコンピュータのほうが,検索に漏れがなく,ミスも少なかろう。

 弁護士にとっては,引き受けた事件の裁判の予測も重要であろう。これは個々の裁判官の癖もあるので容易ではなかろうが,それだって担当裁判官さえわかれば,コンピュータがその裁判官がかかわった過去の裁判を分析することにより,簡単にやってのけるようになろう。とりわけ慰謝料,量刑など,ある程度,相場があるものについては,いっそう予測がしやすい。そうなると,民事事件なら,和解をしたほうがよいか,戦ったほうがよいかについての適切なアドバイスができる。先の国会では見送られた司法取引 - Wikipedia が導入されれば,刑事事件でもきわめて有効だろう。

 実は,裁判官の癖によって結果が異なりうるというのは,平等の観点から問題がある。裁判官は,「良心に従ひ独立してその職権を行」うものだが,「憲法及び法律」には拘束される(憲法76条3項)。法の下の平等(同14条)を考慮すれば,同種の紛争をかかえる国民に対する裁判の結果は,できるだけ同じであるべきだ。そうすると,裁判は徐々に定型化されるべきということになり,コンピュータの出番となりやすい。これは裁判の結果予測をしやすいということだけではなく,裁判そのものをコンピュータでやることができるという話につながる。つまり,アンドロイド裁判官でいいかもしれないのだ。

 ちなみに労災認定は,業務起因性(相当因果関係)という厄介な判断が求められ,とくに過労や過剰な心理的負荷による精神障害のような事案では,判断が分かれることもある。しかし,各労働基準監督署で,まちまちの判断をするようでは,やはり平等という点で問題がある。そこで実際には,細かい認定基準が設けられており(たとえば,脳・心臓疾患の労災認定|厚生労働省精神障害の労災認定|厚生労働省),どの労働基準監督署でもほぼ同じような結果になってきている。定型化ができる以上,コンピュータにやらせたほうが,行政の省力化となってよいかもしれない。危機なのは,士業だけではなさそうだ。

コンピュータの凱歌

 日本の学歴社会における勝者は,これまで大学受験での勝者だった。大学受験での勝者となるための秘訣は,受験に必要な知識をしっかり頭にたたき込み,試験場で,限られた時間内に,その知識を論理的に活用して,答えを出すことだ。そうだとすると,これこそがコンピュータが最も得意とする分野だろう。ちなみにコンピュータなら,試験で緊張してあがるということもない。

 実際,コンピュータを東大受験で合格させるというプロジェクトがすでに進行している。偏差値もどんどん上がっている。このプロジェクトを推進している,国立情報学研究所社会共有知研究センター長の新井紀子氏によると,「2年にわたり人工知能(AI)を備えたロボットに模擬試験を受けさせたところ,偏差値が各科目で50くらいになり,人間の最頻値を超えた。世界史や日本史など暗記によるものは比較的成績がよく,うまく科目を選ぶと『私立大学の8割に合格可能性80%』という結果が出た」という。そして,「偏差値53へ到達するのは予想の範囲内」に迫っているそうだ。

 新井氏は,「大企業は2つの道を迫られる。1つは雇用を守り国際競争力を失うか。もう1つはその業態のボリュームゾーンの雇用を人工知能で中抜きするかだ」と語る。

人工知能の近未来 | NIRA 総合研究開発機構

現実を考えると,後者のシナリオとなるのだろう。受験秀才が勝ち組となっている現在の雇用社会は,人工知能の発展によって,下克上が起ころうとしている。

 

 情報処理学会は2015年10月11日,トッププロ棋士に勝つことを目的として始められた,コンピュータ将棋プロジェクトについて,「事実上の目標を達成した」として終了を宣言した。

情報処理学会-コンピュータ将棋プロジェクトの終了宣言

 実際,2015年3月に実施された第4回電王戦ファイナルは,プロ棋士とコンピュータの団体戦であり,プロ棋士側が3勝2敗と勝ち越したが,そのうちの2勝は,コンピュータの盲点や弱点をついて勝ったものだ(人間相手なら,指すことのないような奇手を指して勝ったのだ)。正攻法では,もはやプロ棋士でもなかなかコンピュータには勝てない。

 ファイナルでいったん終わった電王戦は,新たな電王戦に生まれ変わることとなった。今度は,プロ棋士の優勝者(叡王戦)とコンピュータソフトの優勝者とが戦う。まさに頂上対決だ。しかし,この第1期電王戦には,史上最強の棋士と呼ばれる羽生善治名人(四冠*2)は参戦していない。また若手のトップと言われる渡辺明棋王(永世竜王の資格保持)も参戦していない。棋界の二枚看板が参加していないのだ。万が一負けることがあっては,ということで,名人戦などを担当する新聞社が難色を示したといった噂も流れている。たしかに,将棋ファンとしても,羽生名人がコンピュータソフトに負けるところを見たくない気もする。しかし,ほんとうに羽生名人も勝てないのかをしっかり見極めたい気もする。ちなみに渡辺棋王は,2007年,竜王在位時代に,当時の最強ソフトのBonanza - Wikipedia と対戦して勝っている。

 

 将棋界最高の棋戦である竜王戦(現在は,糸谷哲郎竜王対渡辺明棋王が対戦中)では,対局途中の形勢について,ponanza - Wikipedia というコンピュータソフトの評価値が示されている。同じく現在進行中の叡王戦でも,プロ棋士の解説者が,対局中に,AWAKEというコンピュータソフトの評価点を見ながらコメントしている(竜王戦も叡王戦もニコニコ動画で観戦可能)。

 「現在,ソフトでは,先手が+600点となっていますね。それなら先手が勝つのでしょうね。私には形勢不明で,どちらが勝つかわからないですが」

 「5手前は,後手は+370点だったのですが,いまは-90点になっていますね。後手が悪手を指したのでしょうね」

 というようなコメントが,いまや当たり前になってきている。とくに終盤戦になると,コンピュータのほうが人間より正確であるということは,プロ棋士も認めている。

Accountability

 先日,リクルートの藤井薫氏からインタビューを受けることがあった。そのとき,たいへん興味深い話を聞いた。Account (勘定)かAccountability(説明責任)か,という話だ。

たとえば,経営にとってプラスになる人事は,人工知能によって答えを出すことができる。しかし,コンピュータは,なぜその人事が正しいかの説明はできない。

 Amazonのように顧客のビッグデータを分析すると,ある商品が,次のシーズンに売れるかどうか予想することができる。そして,その予想は当たることが多い。しかし,なぜその商品がヒットするかは説明できない。これは,将棋のコンピュータソフトが,その選択する指し手が,なぜ最善であるかの説明ができないのと同じなのだ。

 商品開発やマーケティングのベテランが,どんなに考えても出てこないような提案を,人工知能は的確にやることができる。ただ,その理由がわからないので,人間には応用がきかない。

 ゲームや商品なら,これでもいいだろう。結果がすべての世界だからだ。私の本も,この手法で,ぜひ売ってほしい。たとえば,『最新重要判例200労働法』は,30代の女性の顧客の多いネイルサロンで,ネイリストの背後に棚を作って,バタフライナイフと一緒に置けば売れる,なんていう奇想天外な提案を,コンピュータはしてくるかもしれない。

 ただ人事となると,どうだろうか。藤井氏は,こう語っている。

 

 「今後5年間でアカウント(売上)を10倍にする打ち手があります。その答えは,経営陣全員クビ。ただし何故そうなったかは説明できません」。仮にAIにそう予測・提言されたら,私たちは容認できるのだろうか。

 

 人事は,人間くさいものだ。人事管理でも,労働法でも,納得が大切だ。解雇が紛争になるのは,経営者が解雇される人に対して,十分に説明責任をはたさず,本人を納得させていないからだ。人工知能に支配され,説明責任をはたさないような経営者の下で働くなんて真っ平御免というのが,普通の人間の感覚だろう。科学的管理法 - Wikipedia(scientific management)は,20世紀初頭にテイラー(Frederick Winslow Taylor)の編み出した経営管理手法だが,新たな科学的管理法は,人工知能に基づくものかもしれない。

 もっとも,経験や直感に頼って,あまり根拠のない無責任な人事をする経営者よりは,人工知能の示すような客観的なデータに基づいた人事をやってくれたほうがいいという考え方もありそうだ。人工知能による分析結果であるということ自体が,その結果に至る理由の説明はなくても,本人を納得させるかもしれない。機械に服従するようだが,あたかも村の紛争が,長老が一言発すれば,みんなが納得して収まるように,人工知能はそれと同じくらいの権威をもつ可能性もある。

Diversity とSymbiosis

 企業の人事において,「ダイバーシティ(diversity)」という言葉が使われることが多くなっている。日本語にすれば「多様性」だ。労働法でいえば,これは異分子を排除することを禁じる「差別禁止(anti-discrimination)」に近い概念だが,ニュアンスは違う。ダイバーシティは,異分子を取り込んで多様化したほうが,経営上メリットが多いという,より積極的なニュアンスがある。

 ダイバーシティとは,共生の論理だ。25年ほど前,イタリアに留学していたとき,イタリア人からいきなり「simbiosi」という言葉を投げかけられた。恥ずかしながら,私はこの言葉を知らなかった。英語では,「symbiosis」。ギリシャ語起源の言葉で,共に生きる(生活する)という意味で,つまり「共生」だ。

 当時の日本的経営の特徴を,外国のジャーナリストが「共生」と説明していたので,そのイタリア人は驚いて話しかけてきたのだ。イタリアでは,歴史的,文化的背景もあって,労使の対立は今日にいたるまで克服されていない。そのイタリア人は,日本の労使の「共生」を,羨ましいと言っていた。

 異質なものといかにして共生するか。男性中心の職場における女性との共生,健常者中心の職場における障害者との共生,自国民中心の職場における外国人との共生,正社員と非正社員との共生など,ダイバーシティと共生は,今日の企業経営における重要な戦略目標だ。

 そこに,新たな共生が加わりつつある。機械との共生だ。機械を異分子として排除することは,もはや不可能だ。ましてや機械と競争をすれば,まちがいなく敗北する*3。共生以外の選択肢はない。

 

 将棋のプロ棋士は,いまやコンピュータとは競争していない。コンピュータを使いながら,戦っている。それどころか,コンピュータとプロ棋士がタッグを組んで戦うなんて試みもすでに行われている。こうなると今後は,将棋の楽しみ方も変わってくるかもしれない。実はチェスの世界では,フリースタイルという対戦方法があるそうだ。つまり,人間とコンピュータがどういう組み合わせで戦ってもよいのだ。そして近年のフリースタイル・トーナメントでの優勝者は,アメリカ人のアマチュアプレイヤー2人と3台のコンピュータで編成されたチームだった*4

 ここに,これからの機械との共生のあり方のヒントがありそうだ。「○○の母」が人工知能を使って占いをしてもいいのだ。弁護士が,ソフトを使って,法律相談をしてもいいのだ。裁判官が,ソフトを使って裁判をしてもいいのだ

 でも気になるのは,チェスのフリースタイル・トーナメントでの優勝者の中にアマチュアが入っていることだ。実は,ここにこそ着目しなければならない。人工知能搭載のロボットが占いができるのなら,街角に行かなくてもいい。ソフトを使ってできるような法律相談なら,弁護士が介在していなくてもいい。つまり何のスキルも専門性もない一般の人が,機械を直接頼りにして,高度なことができるということだ。

 ただこれは働く側にとっては恐ろしいことだ。「機械との共生」は,経営戦略としてはあるものの,労働者には危険がいっぱいなのだ。

合格者へのメッセージ

あるクイズ番組「連想ゲーム」

司会者(昭和生まれ)「次の言葉から連想することを答えてください。いいですか,”高木美保”」

解答者(平成生まれ)「ゴルフ」

司会者「ちがいます。それは高木美帆です。”みほ”の”ほ”は,保のほうです」

解答者「それじゃ,そんな人は知りません」

司会者「『華の嵐』を知りませんかね。ヒントは女優です」

解答者「それじゃ,女優」

司会者「安易ですね,不正解です。では,次の言葉を言います。”南海キャンディーズ”」

解答者「キャンディーズなら聞いたことがあります。普通のおばさんに戻りたいと言って引退したのでしたよね」

司会者「それは都はるみです。キャンディーズは,普通の女の子に戻りたいと言ったのです。それに,そのキャンディーズではありません。お笑い系のほうです」

解答者「ああ,しずちゃんなら知っています」

司会者「そうそう。”高木美保”と”しずちゃん”で,何を連想しますか」

解答者「やっぱり,女優じゃないですか。しずちゃんは,女優もしていましたよね」

司会者「先ほども言いましたよ。女優ではありません。たぶん,次で分かるでしょう。”小椋佳”」

解答者「小椋佳って何ですか? 昭和の時代の食べ物ですか?」

司会者「ダメですね。時間切れです。では,ワトソン君*5に答えを聞いてみましょう」

 

ワトソンは発声しました。「ぱられる きゃりあ」

 

司会者「ピンポーン,正解です。やっぱりワトソン君はクイズに強いですね」

解答者「なんとかきゃりあって,きゃりーぱみゅぱみゅの妹分ですか?」

  先日,法科大学院の私の労働法ゼミに参加していた司法試験の合格者との飲み会があった。そこで私は,これからは弁護士を本業とするのではなく,「弁護士もできる」という生き方を目指せというアドバイスをした。本業は別にもち,弁護士もできるという生き方のほうが,人生の戦略にとってよい,というアドバイスだ。二兎を追え,ということだ。

 「お前は,二兎を追う者は一兎も得ず,という格言を知らないのか。無責任なことを言うな」と叱られるかもしれないが,私が言ったことは弁護士だけにあてはまる話でもなければ,士業だけの話でもない。これからの若者は,「パラレルキャリア - Wikipedia」(parallel career)を目指すべきなのだ。本業以外の副業をもち,キャリアは複線化せよ,ということだ。本業が農業で,女優が副業であったり,本業は芸能人で,ボクシングでオリンピックを目指したり,銀行員をやりながら,シンガーソングライターをしたり,というような「二足のわらじ」をはいたほうがよいということだ。資金繰りで苦しむ中小企業になかなか金を貸してくれない銀行で働く人が,「少しは私に愛をください」と歌うところがいいのだ。

 

 パラレルキャリアのすすめには,仕事だけの人生を送るな,という意味もある*6。仕事以外の趣味や余暇,あるいは社会貢献なども大切にせよ,ということだ。ただ,仕事に限っても,一兎を追うことは危険だ。人工知能に浸食されたあとで転職を考えるようでは遅すぎる。自動運転車の爆発的な普及は,ちょうど夜明け前の状況だ。

タクシー運転手は,転職を考えたほうがいい。士業もそうだ。ある意味で士業の代表といえる武士が,明治維新後,武士でなくなったときの惨状は,「武士の商法」と揶揄された。「先生」が,「先生」でいられなくなったとき,プライドがかえって邪魔し,没落していく危険性がある。大学教授だって同じことだ。

 どうしたらいいのだろうか。やはり人工知能に人生相談するしかないのだろうか,と思うと,ちょっと悔しいが,でもそれを楽しみにしている自分がいる。

*1:シエスタ - Wikipedia

*2:将棋には七大タイトルがあり,格が上のものから並べると,竜王,名人,王位,王座,棋王,王将,棋聖となる。羽生名人は,現在,名人のほか,王位,王座,棋聖のタイトルをもっている。羽生名人は,1995年に,谷川浩司九段から王将のタイトルを獲得して,史上初の全タイトル(七冠)制覇という偉業を達成している。

*3:エリック・ブリニョルフソン,アンドリュー・マカフィー著, 村井章子訳『機械との競争』(日経BP社,2013年)→Amazon

*4:『機械との競争』109頁以下

*5:IBMが開発した質問応答システム。2011年2月に米国の人気クイズ番組「ジェパディ!」にチャレンジし、総合でワトソンが勝利して賞金100万ドルを獲得した。ワトソン (コンピュータ) - Wikipedia

*6:長沼博之『ワーク・デザイン』(阪急コミュニケーションズ,2013年)を参照→Amazon

Copyright © 2015 KOUBUNDOU Publishers Inc.All Rights Reserved.